子猫物語
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 ある雨の日の明け方、眠っていた私は、そのあまりの声の大きさで目が覚めました。ベッドのすぐ近くの窓辺から絶叫が聞こえます。

 もちろん眠いし雨が降っているし・・・、でもあまりにも大きな声で鳴くのでほうっておくことができなくて、パッジャマのまま傘をさして表に出てみました。

 声のするあたりを探してみると、植え込みの中に大声で鳴いている子猫がいました。子猫は生まれてからあまり日が経っていなくて、雨に打たれるままでした。それでも必死で四つの足で体を浮かせて、体が冷えるのを防ごうとしていました。

 あたりを探してみましたが親猫の姿が見えず、このままでは数時間で命の問題になってしまうと思ったので、とにかく私は子猫の体を温めてやることにしました。

 拾い上げてみると全身泥だらけでずぶ濡れ。それにしてもまだ歩くこともおぼつかない子猫でした。家に帰ってお湯で体を洗って、素早く乾かしました。

 その間子猫はちっとも鳴かず、とてもおとなしくしていました。タオルでくるんでやると震えも止まって、ようやく落ち着いたようでした。と思いきや、すぐに寝息を立て始めました。

 よほど全力を振り絞って鳴いていたのでしょう。体が暖かくなってすっかり安心したようでした。

 しかし飼うわけにはいかないのでどうしようかと考えたところ・・・、まずこの子猫はとても健康そうなので、この雨の中で、はぐれるまでは親猫にしっかりと育てられていたはずです。ならば親猫が見つけることができて、さらに濡れないところで暖かくして置いておけば、きっと再会できるでしょう。ずぶ濡れでなければしばらくは大丈夫ですから。

 私は段ボール箱にくるんだタオルごと子猫を入れて、ベランダの下の雨に当たらない場所に置いておきました。その場所は子猫がいた場所にも近いし、人間からは見えにくいようにしておいたので、親猫が見つけるまで何事も起きないでしょう。

 その後子猫の鳴き声は全く聞こえませんでした。どうなったのか心配でしたが、野良猫かあちゃんは、自分の子供が人間にさらわれたのですから、相当慎重に子猫に近づくでしょう。もし私の姿が見えたら、子猫を放棄してしまうかもしれません。

 じっとこらえて何日か過ぎました。あたりに猫がいないことを確認してから段ボール箱を取り上げてみました。中にはタオルだけ。猫が出入りした形跡もありません。つまり野良猫かあちゃんは自分の子猫を見つけて寝床に連れて帰ったようでした。

 これで一安心。まあ野良の世界も厳しいなあと思ったのでした。



つづく・・・

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