◆ 第2章 「詳細検討」 2:駆動システム 金田号のリヤタイヤは左側のみの片側支持である。またその構造体は側方から見て約40度ほどの角度で傾斜している。リヤサスペンションの動作はどうなっているのか。また駆動力の伝達はどうのように行われているのか。 作品中、金田少年はケイを後ろに乗せる。本来、2人乗りではないこのバイクにケイを乗せるためにリヤカウルを壊して乗せるのである。もしケイの体重がもっと重かったら、そのときにリヤサスペンションの動作を確認できただろう。返す返すも残念である。 外観を確認すると、タイヤ側面からずっと繋がったフィニッシャが上方に伸び、シート背後の膨らみの内側に上端が隠れている。動作するならばこの箇所以外にありえない。リヤタイヤはサイドフィニッシャと共に上下し、上端はシート背後の膨らみの中に入り込むはずである。 しかし問題はリヤタイヤの動作軌跡である。フィニッシャが入り込むことを考えるとフィニッシャの角度にサスペンション動作することが望ましい。つまりリヤタイヤは上方に動作するとき、同時に車両前方に移動する軌跡をたどる。だがこれでは走行時、バンプするたびにタイヤが前方に加速される必要があり、リヤブレーキをかけているときには動作しにくくなることと、加速時にリヤに駆動力がかかると車両が加速するよりも前にリヤサスペンションが縮んでしまうという問題がある。加速時にはただでさえスクオットモーメント(ノーズが上がる=テールが下がる)が働くため、リヤサスペンションは容易にボトミングしてしまうであろう。 ケイを乗せ、通常よりリア加重が遙かに大きくなっている状態での加速でも、金田号は明らかな姿勢変化を起こしてはいない。フロントとは異なり、リアはアクティブな制御がなされている可能性が捨てきれない。 リヤサスペンションの理想は、加速・減速の際にできるだけ姿勢変化を起こさずに、しかも路面からの衝撃は完全に吸収することである。乱暴に言えばおおよそ垂直に近い軌跡でタイヤが上下してくれればいいのである。(詳細は省略) ではこの軌跡をどうやって金田号の外観と両立させるか。問題点ははっきりした。 駆動に関する問題のうちひとつはこれで同時に解決する。つまり加速時にサスペンションが無用に伸びたりあるいは縮んだりすることを、上記のディメンジョンを採用することで解決できる。しかし問題はもうひとつある。駆動力の伝達である。 金田号のリヤタイヤにはインホイールモータが内蔵されている設定になっているようだ。映画の中でこのバイクは発進時や加速時に明らかにガソリンエンジンのものと思える爆音を響かせる。この音は現在見慣れているガソリンエンジンのバイクとまったく区別できない。映画に使われた金田号はガソリンエンジン仕様だったのだろうか。それとも電力を大量に消費するときに極めてスピーディーに反応する発電用エンジンを搭載していたのだろうか。 現在の技術でこの仕様を実現するためには、新たにモータを開発する必要があることと、非常に充電・放電の効率のよいバッテリが必要になる。車両重量を500kgなどという数字にしたくないのであればなおのこと、革新的なバッテリの出現が必須である。これは体積的にもどうしても必要なのである。 もしかするとバッテリレスという画期的な仕様なのかもしれない。電動であるにもかかわらずバッテリレスというのは矛盾しているようだが、近年話題になる事の多いキャパシタというものをさらに進化させて搭載すれば不可能とは言えないはずだ。バッテリは電力を蓄積しておくものであり、その点ではキャパシタも同様である。異なるのは電力を保持しておくことのできる時間と効率である。 長時間にわたり電力を保持し続け、幾晩か眠っていた金田号を目覚めさせるときにはバッテリは必須である。キャパシタはブレーキ操作などでモータが逆に発電した場合にこれを効率よく蓄積し、次の加速に備える用途に役立つ。バッテリは突然の大放電には弱く、寿命を縮める。キャパシタは大放電でもさほどダメージを受けない。これらの特徴を生かし、バッテリからは少しずつ放電させ、キャパシタは蓄積された電力を加速時のみに使い果たす。これが現在の技術での論理である。 もちろんバッテリは重く大きい。いくら小型化され高密度化されても、電子を蓄積しておくという目的を考えると、その自重と電子の重さにはあまりにも隔たりがある。蟻一匹しか乗せることのできないジャンボジェットのようである。 キャパシタが劇的に高密度化されれば、金田号をしばらくの間、走らせることができるようになるだろう。加速時には大電流が必要になるため、キャパシタの電流はすぐに底をつく。これを察知した制御コンピュータは、アクセル全開にしたと同時に間髪入れず発電用エンジンを始動し、電力供給を始める。そんなシステムができあがっているのかもしれない。 ただし巡航体勢に入ると、キャパシタは満充電になる。制御コンピュータは発電用エンジンを停止する。高速道路を走り続ける金田号は、ライダーの意志とは無関係にエンジン音が突然途切れることとなる。これはあまり気持ちがいいものではないだろう。またしばらくするとキャパシタの電力が不足するため、これまたライダーの意志とは無関係にエンジンが始動する。突然のエンジン始動にライダーは驚かないはずはない。コーナリングの途中などでは始動を制限する必要があるのではないだろうか。 もしかすると、発電用エンジンは走行時には停止しない方式を取っているのかもしれない。作品中、一度も金田号はエンジン音が途切れたまま走行することはなかった。しかし、走行中エンジンが停止しないのならば、なぜ効率の低いハイブリッド方式を採用しているのだろうか。エンジンで直接後輪を駆動した方が燃費さえも良くなる可能性がある。ハイブリッド化してエネルギー効率を上げるためには、やはりどうしても非常に充放電効率の高い理想的なキャパシタが必須であり、回生ブレーキでどれほど大きなエネルギーを回収できるか、すべてそこにかかってくる。 もっとも、あの形状を実現するという目的のためだけにハイブリッド化したというようなことがあれば、それは話が変わってくる。外観のためだけに効率を落としてまで独自のシステムを搭載する。最新システムを感情論で使う。案外それこそが未来のプロダクトかもしれない。 もしガソリンエンジン仕様に的を絞った場合はどうだろうか。これも明快な問題点が浮かんでくる。チェーンをどうするか、あるいはチェーンに代わる動力伝達システムをどうするのか。 最も現実的な方法は従来通りのチェーンを採用することである。しかし金田号にはリヤスイングアームが無い。あてもない空間をチェーンが走る場合、チェーンの張力の反作用をいかに受けとめるかが問題になる。いい加減に作ると加速の際にリヤタイヤがステアしてしまい、とてもフル加速できなくなる。さらにサスペンションの軌跡と綿密な照合をしないと、加速・減速の際に頻繁にチェーンが切れる、または外れるという結果が待っている。 また外観上の問題も大きい。金田号にチェーンは許されるのか・・・。 チェーンを2本用意し、フィニッシャ内をたどればよいとお考えの方もいらっしゃることだろうが、それではサスペンションが縮むときにチェーンのテンションを確保できない。 シャフトドライブを採用する手はある。シャフトに伸縮する能力があれば、フィニッシャ内を巡り巡ってリヤタイヤを駆動することは可能である。しかし極端に効率は落ち、整備性は途方もなく落ちる。摺動部は熱を持ち耐久性を落とし、またコスト的には夢物語に舞い戻る。 |
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序章 ◆ 第1章 「問題点」 ◆ 第2章 「詳細検討」 ・ステアリングシステム ・駆動システム ・最低地上高 つづく |